医療人のやりがい作り:コーチングコミュニケーションによるチーム医療の構築

2013.8.13発行 Vol.14
頭の引き出し

 我々が日々の生活の中で、将来的にやらねばならないこと、やろうと思っていながらやっていないものがある。 これは課題というべきもので、中期的あるいは長期的ビジョンであり、ある程度の期間が必要である。 それをなすべき為には具体的な戦略あるいは計画、またその見直しも必要である。 課題は達成されるまでは「未完了」であり、達成されると「完了」となり、大きい課題であるほど達成感も大きい。
 一方、将来の課題の他に、自分の周りに日々いろんな問題が発生してくる。問題を解決しなければ自分の頭の中で「未完了」を抱えてしまうことになる。問題の未完了は、心の中に「気がかり」、「いやなこと」や「不安」といったものを生みだす。解決策がない場合、頭の中で問題が堂々巡りし、大きなストレスとなり夜も眠れなくなる。多くの未完了を抱えていることは、頭の中がいろいろな問題によって支配され、それによってエネルギーを消耗し、動けなくなる。問題を多く抱え込んでしまうと他の問題の処理能力にも影響してくる。未完了の問題を完了させ、気がかりや不安を解消していくと、人はエネルギーを獲得し、明るく、行動的になれる。人がより大きな問題に向かって行動をおこして行くためには、この未完了を取り除き完了にしていく必要がある。
 現時点で自分だけでは処理が不可能であったり、頭の中で堂々巡りするような問題を、私は自分の『引き出し』の中に入れるように心掛けている。『引き出し』に入れることは、自分の頭の中から一旦それを取り除くということである。心の中を支配している気がかりや不安を消す、あるいは、薄めるのである。したがって、多くの『引き出し』を持っていることは頭の中に未完了の問題が蓄積されないということであると考えている。そして、『引き出し』に入れたものでそれが解決可能な状況に来た時は直ちに『引き出し』から引き出し、解決策を探る。それほど重要でない問題であった場合に引き出しに入れておけば時間とともにそれが消えてゆく場合もある。それはもともと大した問題ではなかったかもしれないと考えている。『引き出し』に入れるという自分である種の決めたルールによって、頭が整理され、次の行動に移れるのである。未完了を完了にさせる。未完了を自分の頭に詰め込まない。一時的に『引き出し』に入れておく。これが私なりの問題処理法である。

2013.7.10発行 Vol.13
地道な文化創生活動こそが改革

 リーダーに求められる資質は、明るく、謙虚で、自己犠牲も少しあって、部下よりは多めの汗を流している、 というようなことではないかと思う。
 チーム医療の推進のために必要なこととして私が言いたかったことは、医療というのは多職種が集まり、 多くの部門で構成されているところですから、それらの個々のチームの力を強くするということである。 こうしないことには、チーム医療は形成されない。あるチームがどこかのチームに従属していてはだめである。 そして、真のチーム医療を受け入れる文化をつくることである。その文化に私は、“ケア”という言葉を入れていきたい。 緩和ケアが日本でこれからさらに浸透していけば、ケアという言葉がどんどん発展していくだろうし、地域連携室や ソーシャルワーカーの重要性も広がっていく。
 最後に、医療者と患者の関係についてもまとめたいと思う。 よい医療者とは、患者さんと医療者との間にギャップがあることを認識して、そのギャップを埋めるように努力すること、つまりコミュニケーションを取っている医療者である。これは夫と妻、親と子に置き換えることもできます。 双方向性のコミュニケーションを取って認めていくと、医療者と患者さんは近づいていくのである。
 私はいろいろなことを改革と思ってやってきましたが、改革とは決してこぶしを挙げて戦うことではない。 仲間をつくることである。ですから、何か病院で実現したいという提案があるときには、仲間をつくってください。 そして、ファンになってもらうこと。 そういう地道な文化創生活動を継続することこそが改革になるのではないかと思う。

2013.6.12発行 Vol.12
組織の中に敵をつくらない

 組織の成功の必須条件は、人間関係の円滑化だと考えている。 そのためには、各人のエネルギーの5%でいいから、組織のために使ってほしい。
言葉としてはあまり好きではないが、この自己犠牲精神が組織の中で信頼をつくる 根本ではないかと思われる。 自己犠牲が嫌な人がおられるが、これはたちが悪い。 ほかの人たちは5%のエネルギーを組織に使っているが、自己犠牲を払わない人がいると、 皆の関心は嫌な人のほうへ向き、敵対心として使われる。これでは組織が機能しない。
 もう一つ大事なことは、組織の中で偏見を持たないことである。 リーダーが医局員の中の誰かを色眼鏡で見ると、みんなが偏見を持つようになり、その選ばれた人 しか組織に残れないようになるということである。

2013.5.8発行 Vol.11
承認メッセージを常に発信

 職場環境の整備にはさまざまな要素が必要であるが、最後に挙げた「承認」は大切である。
「私は認めていますよ、見ていますよ」、というメッセージは常に部下に送る必要がある。 たくさんの言葉は必要ないが、心に残る一言だけで「認めているよ、分かっているよ」 と言うテクニックも必要である。

<タイプ別の褒め方>

 人は褒めてほしいものである。でも、きれいな人にきれいだねと言ってもあまり効果がない。
何を褒めてほしいかといえば、見えないところを見て、「がんばっているね」と褒めてほしい のである。それ見つけるのがリーダーの役割である。大変難しいことである。

2013.4.10発行 Vol.10
双方向性のコミュニケーション

  医療の現場は一般企業とは違って、非常に多職種とのコミュニケーションを取ることが多く、チーム医療の基本はコミュニケーションである。

では、どのようなコミュニケーションがよいか。

 会話は、直球ではだめ。コミュニケーションの基本はキャッチボールだ。双方向性で、相手が受けやすくて投げやすいボールを送ることがコミュニケーションの基本である。そして、双方向性のコミュニケーションとは、それぞれの職種の立場と考え方、個性を尊重するということである。そして、双方向性というのは相手にしゃべらせることが重要であり、自分がしゃべることではない。相手が聞いてもらったと思うことが大切である。すなわち傾聴する技術であり、双方向性イコール傾聴だと理解して頂きたい。“よい職場の条件”にはいろいろな要素がある。

コーチングトレーニングを運営しているある企業のメールマガジンで紹介されていた調査結果だが、そこでは一番重要視されているのは、「組織で十分にコミュニケーションが図られている」ということである。

2013.3.13発行 Vol.9
コーチングスキルを持つ

 命令で人を動かす時代はもう終わったと思われる。組織を活性化させるには、やる気を起こさせることである。ではリーダーはどうすべきか。私が出会ったのがコーチングで、試験を受けて認定コーチとなった。コーチングとは、生き方ややり方の答えはその本人の中にあり、コミュニケーションで答えを引き出すという考え方である。だから私はできるだけ、自分では答えを言わないようにしている。

 最近の若い人は生意気であるが、非常に迷いや不安を持っている。私も考えがまとまらない若い頃は、教授から「おまえの考えはみそくそ一緒や」とよく言われたものである。そのような人たちをどうやってコーチングすればよいか。
 それには、質問によって自らの頭の中を整理させ、混沌とした頭の中をきれいに分けていくことが必要である。そして最後の質問で気づきを与え、本人の答えと方向性を導き出す方法である。質問がモチベーションをつくるのであり、モチベーションを持たせるような質問をしている。人は、目標が見つかったら必ず努力する。そして、三番目に大事なことは、リーダーは問いかけることで意思を伝えることである。

 質問には、クローズドクエスチョンとオープンクエスチョンがある。クローズドクエスチョンというのは、イエス・ノーで終わり会話が続かないが、オープンクエスチョンはwhatとhowで会話が始まり、会話が続く。そして、whyを使うのは難しい。関西弁でwhyを言うと、「何でや」と相手をせむることがあるので注意が必要である。有効な三つの質問を紹介する。それは未来、過去、現在という形がコーチングのテクニックである。

 未来はどうしたいのか質問して、「あと5キロやせたい」という答えがあったとする。次に過去について質問します。「いままで何をしてきたのですか」と。もし「1日10分歩きました」と答えが返ってきたら、「それでは効果がなかったのですね、ではこれからできることは何ですか」と質問し、「20分歩きましょう」というような答えを引き出すことになる。

2013.2.14発行 Vol.8
従来型リーダーからの脱却

私は、教授をやめて、人が辞めない組織作りを目指してジェネラルマネージャーをすると決めた。臨床研究教育関連病院のいわゆるマネージャーであるという感覚に、自分自身を追い込んだわけである。これはコーチングを始めたきっかけでもある。

人はなぜ辞めるのかということを考えた。そうすると、自分の理想とするライフスタイルが違うとか、思いやり・絆がない。コミュニケーションがなければ絆はできないから、コミュニケーションはアクティブにつくっていかなくてはならない。そして、組織への帰属心もなくなる。そのような状態で仕事がきつく、給料が安いと来たら、辞める理由がいくつかある。

しかし、一番大きい問題は二つだ。解決策のない閉塞感からくる疲弊と、自分が評価されていないということ、この二つに尽きるかと思う。疲弊させないように、組織のリーダーは常に皆の顔色を見て、“本当に嫌になっているな”という顔を見たら、少し何かをチェンジしたりしなくてはならない部分がある。評価されていないということへの対策としては、仕事を納得できるように仕組みをつくることである。

医療現場では、異職種が集まった命令型のコミュニケーションがあり、医師や看護師、コメディカルなど10を超える多職種がいて、そこにそれぞれの部門で一方向性の命令が来るとこれらが交錯する。指令が職種や年功序列で絡み合い、やりがいを持てない組織体制になり、これがトラブルや事故につながることは明白である。

従来のリーダーというものは、一方向性の命令を与え、ヒエラルキーをつくっていればよかったわけであるが、最近の若い人は命令による仕事を嫌がり、やらされているという感覚を持つ。そして、納得していないことに対してはエネルギーが出せない。なら、これらのことをやめれば良い。上からの命令系統で絶対的権力をもって支配するというのは、かなりエネルギーが必要で、リーダーはライオンのように毎日吼えていなくてはならない。そこでは“恐怖”が一つの原動力にもなっている。

一方向性の命令を行う縦型組織を、私は「エンペラー型」と呼んでいる。諸問題の解決の答えは現場が持っているのであり、リーダーが持っているわけではない。事故は現場で起こるもので、上層部で事故は起こらない。いくら病院長が事故を起こさないようにと訓示を与えてもだめなのである。現場が持つ答えを引き出すためには、一方向性ではなく現場でディスカッションをして、双方向性のコミュニケーションをつくっていくしかない。ディスカッションさせるのがリーダーの役目である。

2013.1.9発行 Vol.7
医局における医療チーム

大学病院では、大学の学長から医学部長、病院長、診療科の教授を合わせると25人はいる。その下にそれぞれの医局があり、一般的な会社組織であれば、学長が社長だとすれば教授は事業部長の役割となって機能していくと思うが、大学組織となると皆が社長である。大学病院とは会社組織とは異なる、非常に特異なところである。

最近の医学部卒業生の4割近くが女性で麻酔科にも女性が配属されている。手術件数が増えても、人が減っても、手術件数は減らせない。麻酔科の勤務は外科に依存しており、外科の手術が午後10時に終わるときは、その時間までつき合わなくてはならない。疲労が重なるとどうしようもない閉塞感が出てくる。そして、人間は忙しくなると、チームの中で自分より暇な奴は誰だろうかと探す。そして、今度は自分を犠牲にして働くことがばかばかしくなって、チームの絆が消えて、辞めようかと思ってしまうという循環に入る。医局崩壊は実際に起きている。普通の教授のままでいてはだめで、マネジメントが必要な時代になっているのである。

2012.12.12発行 Vol.6
ケアマインド教育の取り組み

(1)緩和ケア病棟実習
1999年に和歌山県立医大が新築移転された際に、がんの集学的治療部門をつくることとなり、国公立病院では初めて、緩和ケア病棟が新設された。前後して1998年にケアマインド教育に取り組むための「緩和ケア研究会」というものをつくった。
治療できない患者をどうするかと考えさせる部門である。

(2)医療問題ロールプレイ
医療問題ロールプレイは、緩和ケア病棟実習と同時に始めた。
5年生全員を対象として、大学の講堂で発表を行っている。1グループは15名ずつで、シナリオづくりから、監督、音響、照明、舞台装置、ポスターまで、すべて彼らが制作する。
私は時間と場所だけ決めて、準備には一切関係しない。シナリオの内容などについては、医師や医療関係者には絶対に相談しないことが決まりになっている。
この取り組みも10年続いていて学生は過去の作品をDVDで見ているので、競争心が起こってくるのか、非常にレベルが上がってきている。患者満足の医療はどうあるべきかを考える機会を与えている。


2012.11.14発行 Vol.5
サービスは人の性格に依存してはならない

患者満足のコミュニケーションとは一体どのようなものなのか。

キャビンアテンダントは非常に愛想が良い。しかし、愛想がよい人が性格がよいとは限らない。 東京ディズニーランドは、従業員が8000人いて、アルバイトがそのうち6000人と4分の3を占めますが、リピーターを90%近くつくっています。ここには顧客を満足させる教育がある。

医療者側は治療をしているのだから患者さんは満足しているはずだと思いがちだが、患者さんの感性のフィルターを通ると、小さな満足や不満足など、いろいろな形がある。これをもう一度満足に戻すためには、いままでcureだけだった医療にcareを入れるということが必要です。

ケアマインドというのは、患者の心に共感し、傾聴することである。そして、コミュニケーション力と、フィードバックする能力を持って、「これでよいのだろうか?」と自問できる謙虚さを持つこと。これらがないとケアマインドではありません。 そして、サービスというものは人の性格だけに依存してはならない。性格は直らない。ではどうすればよいのかというと、患者さんを満足させるコミュニケーションスキルを学ぶことである。


2012.10.10発行 Vol.4
挨拶のできる人・できない人

コミュニケーションの基本は挨拶ができるということである。病院で患者さんからの苦情がどのようなところに集まっているのかというと、挨拶のできない医師に集中している。 挨拶のできる人はどのような人なのでしょうか。やはり、十分愛情を受けて育った人は非常に挨拶が早くスムーズです。それから、気配りができる人。 反対に、挨拶のできない人がいる。 挨拶できないことを“自分はシャイな性格だから”と理由をつけている人が結構多いようである。しかし、熱心で患者思いであっても口下手なためにその気持ちが伝わらなければ、情報伝達が悪くなり、いろいろなところに不満足をつくっている可能性があるということを認識するべきである。

それから、教育が欠如しているような場合である。 シャイな人には、「あなたはそれでよいと思って満足しているかもしれないが、患者もその他の人も満足していないよ」ということは教えてあげるべきではないかと思っています。本当に根性の悪い人はどうしてよいかわかりません。


2012.09.12発行 Vol.3
多職種間の連携

患者満足の医療というのはどのような形なのか。

患者さんに携わるいろいろな職種の人が患者さんを囲んで、直接患者さんとコミュニケーションを持つことはだけでは、本当の意味のチーム医療ではありません。患者さんとのコミュニケーションは、もう当たり前の時代です。

必要なのは、医療者同士のコミュニケーションです。 “チームコミュニケーション”と呼んでいます。


2012.08.11発行 Vol.2
治療中心だった日本

現在の産業経済、医療・医学教育の分野は、皆、第二次世界大戦後に起源を持っている。医療分野では、なかでも特に診断と治療学が遅れているということから、先人の方々が一生懸命遅れを取り戻そうとしました。そして、日本の医療、医学教育は、「治療」を中心に発展し、世界の先端を行くようになりましたが、教育のなかにはケアという言葉すら出てこなかった。私は、これが日本の医療のひずみをつくったのではないかと思っている。

「ICU」(集中治療室)という言葉が日本に入ってから40年以上になる。ICUとは何の略かというと、Intensive Care Unitであり、Cureではないのです。cure、careという概念がなかったがゆえに、このIntensive Care Unitというのが集中治療という言葉になってしまった。

このような経緯から、日本の医療は治療者が優位を占めるような形になって、ケアは縁の下に置かれているような状態になっている。

医療サービスの3原則とは安全、安心、満足です。この三つのうち、満足というのは非常に難しいことである。治療イコール医療となって、医療や医師への依存度は高まっているが、医療側には、治療しているので患者は満足しているはずだと自己満足していた部分はなかったか。治った患者さんが満足するのは当たり前ですが、治っても満足しない場合があります。そして現代は、治らない患者さんも満足させねばならない時代に入ってきている。


2012.06.25発行 Vol.1
CureとCareについて

1980年にリリースされたエレファントマンという映画がある。モノクロで、これは19世紀末のイギリスの医療の一旦も垣間見ることのできる、事実に基づいたストーリーです。ミスターメリックという主人公が、少年期から頭蓋の形成異常を来たし、だんだんと象のような顔になっていきました。そして両親が亡くなった後、彼は興行師に引き取られます。醜い顔を見世物にされて生きてきた彼を、王立ロンドン病院外科医のトレベスという人が見て、病気そのものを見世物にすることは何事であるかと尽力し、メリックが生涯暮らせる病室をつくることに成功する。

メリックが入院の日に、トレベス医師にこう尋ねます。
「Do you cure me ?」

トレベスはこのように答えます。
「No, No, We can’t cure you. But, we can care for you.」

ここで、cureとcare、治療とケアとの違いがはっきりと出ている。イギリスの19世紀末の医師にはもう、cureとcareの概念が根づいているということである。

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