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ヨコ型マネジメントコーチング

人の集まりは集団である。その集団が目的をもって行動するとき「組織」となる。 医局は組織である。組織の構成員が共通のビジョンのもとに行動、すなわち仕事をしなければならない。ビジョンとは組織の将来の方向性があり、また、構成員の一人一人がイメージし、具体的な目標をもって仕事をすると成果がでる。仕事は楽しくなくてはならない。自分の意思でもってある程度の結果が得られると達成感が味わえる。この仕事の積み重ねによって、仕事に対する自信がついてくる。そして、組織の中での存在感が味わえる。

私もそうであるが、人は常に迷いがある。迷うことは行動の方向が定まらないのである。そうしたときに、上からの命令があれば彼らは行動する。しかし、その上司の命令に対して納得がなければ、命令以上のことをしない、自主性はなく、責任感も生まれない。命令はしばしば一方向性のコミュニケーションである。行動する本人とリーダー双方向性コミュニケーションを繰り返していると、相手の思考が整理され、やるべき方向性が明らかになる。同時に、自主性責任感も生まれる。

組織の一員をどのように組織をまとめればよいのか?どのような労働環境を整えればよいのか?どうすればメンバーに仕事のモチベーションを持たせることができるのか?などを、模索しながらやってきた。6年前、私はアメリカで導入された「コーチング」に出会った。コーチングとは双方向性コミュニケーションスキルを使って人に考えさせ、方向性、答えを導く方法である。コーチングの基本理念は、「人は無限の可能性を持っている。」「人が求める答えはその人の中に眠っている」、である。基本的スキルとしては「聴く」、「質問する」および「承認する(認める)」である。このスキルを使って医局員を導くことを考えている。今、企業では組織のマネジメントにコーチングが活用されている。コーチングは、「人は無限の可能性を持っている」「人が必要とする答えは、その人の中に眠っている」といる基本理念に従って、「人の目標や希望を達成するために、質問によって眠っている答え・方向性を引き出し、自発的行動を促すコミュニケーション法」である。また、コーチングは、個人のモチベーションを高めるだけでなく、コミュニケーションによってチーム意識を培い、組織の機能を高めるのに有効であるとされている。

病院は各分野の専門家(医師、看護師、薬剤師などとさまざまなコメディカル)が目的のために ひとつとなった組織、多職種医療チームである。 従来の患者さんと医師、“1対1”の治療だけでなく、患者と家族に対するケアをも提供し、患者さんと医療集団による“1対多”の医療である。一般的にはこの集団において、院長、理事長、事務局長、看護部長による管理が行われている。いわゆる縦型のマネジメントである。このリーダーたちが情熱を持ち、ラインの部下に対してビジョンを明示し、その方向に向かっての戦略を練り、組織を束ね、動かすこと、これがいわゆる縦型マネジメントである。しかし、しばしば、このマネジメントはリーダーたちの連携によって旨く機能していても、必ずしも組織の小さなチームが旨く機能しない場合がある。

多・他職種が集まる病院組織では、3つの大きな違いが存在する。立場、考え方、そして個性である。これらの違いが複雑に絡んで病院ではいろいろな程度の軋轢、問題が起きる。チーム間に大きな壁・垣根が生じる。さらに、個人レベルで病院の使命に対するモチベーションが低くなり、やりがい感が損なわれることになる。こうした問題に対して縦型マネジメントとは異なり、独立した横型マネジメントが求められる。横型マネジメントではコーチングスキル、すなわちコミュニケーションスキルを使って、組織の垣根を低くし、小チームとさらに個人レベルでモチベーションをもってチーム力を高めることである。医療人すべてがやりがいを感じることのできる組織作りが必須である。コーチングスキルで重要なことは、それぞれの話をしっかりと聞くことである。たくさん質問する。「あなたならどうする?」と、質問によって自ら考えさせ、より良き方向に導き、本人が納得した行動を促すのである。組織で多くの人材のモチベーションを高めることが、組織機能を高めることになる。

これからの病院経営は人材育成にかかっている

最近、『病院がしっくりいっていない』、『ギスギスしている』、『ある部署の離職者が多い』ということがよく聞かれる。これらは病院に限ったことではない。「なんとかならないか?」というのが主な問題である。私が病院・各部署のコーチングを通して感じる共通する問題はリーダーの立場にある人のリーダーシップが欠如、さらに、部下の中間管理職としてのフォロワーシップが欠如でないかと思われる。

リーダーといっても、必ずしも病院のトップ、病院長のことだけではない。チーム医療化が進み、各々のコメディカル(例えば、リハビリ、放射線、ME部門など)にリーダーがいる。

 しかし、リーダーになった人が必ずしもリーダーシップマネジメントを研修してきたわけでない。また、リーダーとしてのロールモデルを見てきた訳ではない。リーダーは任命されたときからリーダーが始まっている。 中間管理職は、自分の部下に対してはリーダーであるが、病院幹部(院長、部長、師長)に対してはフォロワーである。フォロワーと言っても、フォロワーとしての役割を認識しているわけでない。

リーダーとフォロワーの役割は極めて大きい。リーダーは模範となり、フォロワーはそれを補佐する。リーダーはビジョンを示し、フォロワーはそれを現場で具現化する。リーダーは意志決定をし、フォロワーはこれを実行する。フォロワーはリーダーに対して、貢献し、批判力をもたねばならない。批判はするが貢献をしないのは最悪のフォロワーである。この関係が上手く機能しない組織では、部下は不満を募らせ、崩壊の危機となる場合がある。いずれも共通目的を追求するうえで欠くことのできない要素である。リーダーとフォロワーの関係では、力は上から下へ一方向性に働くと考える人がいるが、実際はそうではない。フォロワーの方からもリーダーに多大な影響を及ぼすことができる。

フォロワー側からのリーダーに対する基本的欲求として、仕事に対する情熱を高める信頼、部下に対する思いやり、安定(病院に勤務することの安心感)、そして、将来に対しての希望である。これらが満たされないと、フォロワーの心はリーダーから離れてゆく。

各リーダー・各フォロワーとの私のコーチング面談の経験から分かることは、リーダーシップのあり方、フォロワーシップのあり方が正しく理解・認識されていないことが多い。「こうあってほしい」「これをしてほしい」と、お互いに暗黙の欲求はあるが、どちらも欲求不満状態にある。良好なコミュニケーションができていないと思われる。

リーダーとフォロワーの両者が協働するうえで必要なことは、まず、「自分はどのようなものであるか」自己認識である。自己認識が十分でないと、歪んだビジョン・目標を構築することになる。自己認識を持ったリーダーとフォロワーの「すり合わせ」がなければ組織が活性化されない。現在、フォロワーであっても、早期から将来の卓越したフォロワー・リーダーになるべく人材育成と組織開発が必須である。卓越したフォロワーは、リーダーの意味を理解し、必ずや卓越したリーダーに育つ。したがって、卓越したフォロワーを育てるべく人材育成のシステムがなければならない。

畑埜 義雄

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